2025年6月6日。起きてすぐスマホを開いたら、その一報が目に飛び込んできた。
「着陸船と通信確立できず」
まだ結果が確定したわけではない。回復するかもしれない、そんな一縷の望みが残るぎりぎりの状態だった。
結果は月面着陸失敗。株式投資を始めてまだ日が浅かった私にとって、そのニュースの意味を理解するのに数秒かかった。ispaceの月面着陸ミッション2。
正直、めちゃくちゃ悔しかった。この日を境に新しい時代が来ると思っていたから。
宇宙開発なんて自分には縁のない世界だと思っていたのに、ニュースや公式Xで見るたびにワクワクして、応援する気持ちで少しずつ買い増ししていた銘柄だった。
その日、株価はストップ安になった。市場が下した評価は、あまりにも容赦なかった。
あれから時間が経ったけど、私はまだispaceの株を手放していない。含み損は今も抱えたまま。それでも売る気にはならなかった。理由は単純で、「応援したい」という最初の気持ちが、あの日のがっかり感より強く残っていたからだと思う。
そんな中で、たまたま立ち寄った本屋で目に留まったのがこの一冊だった。
『月をめざすチームの働き方』(袴田武史/KADOKAWA)
「矢面に立つ」という覚悟
本の中で最も刺さったのは、経営者としての判断基準についてのこの一節だった。
自分が責任を持って最後まで説明できるかどうか。何かが起きたとき、「これは彼に任せていたので、彼から説明させます」と矢面から逃げることをしない。その姿勢が、経営としての判断の軸になっているという。
これは読んですぐ自分の仕事と重なった。私は工事の種類や難易度に応じて、誰にどの現場を任せるか人選をする立場にある。
当然、その人選が結果として失敗に繋がる可能性もゼロではない。でも、そこから逃げてはいけないと思った。人を割り振った以上、その結果に対して自分が説明できる状態でいなければならない。
見返りを求めない応援の連鎖
本の中には、ispaceの黎明期のエピソードも書かれている。事業計画すらまだ固まっていなかった頃、袴田社長は100人の経営者に直接手紙を書いて支援を訴えたという。
100人、である。
1人2人ではない。宛先を選び、文面を考え、一枚一枚に自分の言葉を込めて送る。返事が来る保証もなければ、読んでもらえる保証すらない。それでも100人分の手紙を書き続けた。この行動力に、私は本気度というものを見た気がした。
可能性がある限り手を尽くす。効率とか、確率とか、そういう理屈を一旦脇に置いて、とにかく届けたい相手一人ひとりに向き合う。この姿勢そのものが、すでに一つの挑戦だったのだと思う。
そんな中、ローバーの公開実験を見たエンジェル投資家から支援の申し出があった。それは金銭的なリターンを見込んだものではなく、「彼らを信じ、応援したい」という気持ちからの投資だったという。
100人への手紙という、本気の熱意があったからこそ、その熱に応えてくれる人が現れたのだと思う。
あの日、大幅に下落した株を私がまだ手放していない理由も、この話を読んで腑に落ちた気がした。私があの株を買い増ししたのも、リターンの計算ではなく「応援したい」という気持ちが先にあったからだった。ispaceという会社は、技術だけでなく、こういう見返りを求めない応援に何度も支えられてきたのだと思う。
そして何より、この100人への手紙のエピソードは、私自身への問いかけにもなった。私は今、何かに対してそこまで本気になれているだろうか。次期チームリーダーとして、これからチームを率いていく立場になる中で、この熱量は忘れずにいたいと思う。
成功か失敗かの二元論ではない
本には、成功と失敗を二元論で捉えない、という章もある。100%成功しなくても、80%達成できたなら、そこで得たデータや経験を基に残りの20%を埋めていく。そういう向き合い方をミッションごとに続けているという。
特に日本社会は失敗を許容しない傾向が強く、その結果「失敗を避けるために何もしない」という状態に陥りやすい。成功できることだけをしていては、成長がないと著者は言う。
あの朝、市場はミッション2を完全に「失敗」として値付けした。ストップ安という数字は、まさに二元論そのものだった。しかし、月面着陸には至らなかったものの、ミッション2は10段階中Success8までは達成していたということ。市場が見ていた「失敗」と、ispaceの中の人たちが見ていた「80%の成功」は、同じ出来事なのに全然違う景色だったのだと思う。
「日本を、失敗できない国にしない。」
本と合わせて、ぜひ見てほしい動画がある。ミッション2の着陸を前に公開された、ispaceのプロモーション動画「日本を、失敗できない国にしない。」だ。
一度の失敗で終わりにしてはいけない、次の失敗を恐れて挑戦をあきらめないでほしい――そんな思いが込められている。
日本社会が失敗を許容しにくい風潮を持つこと、それが受験戦争的な教育の影響なのか文化なのかは分からないが、確かに存在すること、そして失敗を恐れて何もしなければ新しいものは生まれないことが、映像を通して静かに、でも力強く語られている。
本日の俺アップデート
株価がストップ安になったあの日、私は完全に「失敗」という言葉に飲まれていた。でもこの本を読んで、失敗の中身を見にいくという視点を持てた。80%まで来ているなら、残り20%をどう埋めるかを考えればいい。それは投資の話だけでなく、現場で自分の仕事にもそのまま当てはまる。
矢面に立ち続ける覚悟と、失敗を二元論で終わらせない視点。この2つを持てるかどうかで、私の将来の景色は、きっと変わってくる。



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